コインチェックでの DX Criteria の活用

Introduction

コインチェックの VP of Engineering を担当している佐藤ニールです。今回のブログではDX Criteriaを活用したコインチェックでのDX改善についての活動を紹介させていただきます。

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DX Criteria - Vision

DX Criteria 策定の目的とビジョンより:  https://dxcriteria.cto-a.org/

What is DX Criteria?

DX Criteriaについては日本CTO協会のページを:

dxcriteria.cto-a.org

トップページにある説明が DX Criteria について一番わかりやすい説明なので引用させていただきます。

DX Criteria( DX基準 )は、日本CTO協会が監修・編纂している企業のデジタル化とソフトウェア活用のためのガイドラインです。

本基準は、デジタル技術を企業が活用するために必要な要素を多角的かつ具体的に体系化したものです。ソフトウェアエンジニアリング組織の健全な成長・経営目標の可視化・パートナーとのコミュニケーションなどに使っていただくことを目的に作成されています。

 

2年前の2019年12月11日、日本CTO協会の集まりで発表された DX Criteria 。この様なCTOとしての基準的な物を求めていたので、待っていました!という印象でした。と言うのも、10数年程この業界で技術系の役員をやっていて思ったのは、日々対応するべき課題が多い中で、「何か基準になるMUSTな事は何か?それをどのレベルにするべきなのか?他社とのベンチマークをどうするのか?」などという点で良く悩んでいました。しかもこの基準はしっかりと考えられており、5つのテーマをテーマごとに8つのカテゴリに分けて重要な点を網羅的にカバーしています。技術的なマネージメントをしている方は一度でも良いので DX Criteria で自社の現状をスコアリングしてみる事をお薦めします。一度スコアリングをするだけでも色々な課題が見えてきますし、逆に既にできている点なども可視化されるので、次に注力すべき点などが明確になります。

ちなみにフルバージョンは320項目をチェックするので、めちゃくちゃ大変です。辛いです。最初にチェックをした時は苦行でした。2019年にリリースされたバージョンには詳細な説明もなかったので、質問の意図を自ら考える必要がありました。ただ、新しいバージョン v202104 では詳細説明ページへのリンクがあるので、そこまで迷う事はありませんが、それでも328項目(リモートワークについて8問増加)あるので気合を入れて取り組む必要があります。ただ、日本CTO協会では2021年10月に簡易診断バージョンをリリースしているので、とりあえずお試ししたい方には簡易診断をお薦めします。

Initial Scoring

2020年07月に初めてスコアリングした結果です。

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DX Criteria - 20207

カテゴリ別のスコアを見ていただくとわかるのですが、data と corporate 以外が30台前半でスコアリングをする事によって数々の課題が見えました。

ここから課題への取り組みを実施し、9か月後の2021年04月に改めてスコアリングをした結果が以下の通りです。

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DX Criteria - 202104

全体的にスコアが上がったのが明確です。

では、何をやったのか?

Actions Taken

最初にスコアを出してから次のアクションを決める際に、全ての項目を全力で改善するのではなく、まずは小さい成功体験を積み上げて行く事によって「DX Criteria のメリットを実感する」事を重視しました。

対策を打つ際にフォーカスをしたのは、課題のある三つのカテゴリ: team, system, design。この中でも横軸の一番左側にある、「メトリックスの計測」と「学習と改善」、この二つのポイントです。この他には「プラクティスと習慣」と「アンチパターン」という軸でスコアリングをしていくのですが、そもそも計測と学習&改善ができていないと後者2つの軸、習慣化と非アンチパターン化という点は達成できません。

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集中改善項目

フォーカスするエリアは決まったのですが、具体的に計測方法などで悩む点があったので、DX Criteria の作成にも関わった株式会社レクターの広木大地さんにアドバイスをいただきながら対策を打っていきました。計測方法以外でもサクっとできそうな物も対応しました。

具体的な施策はそんなに難しい物では無かったです。以下施策例の一部:

  • インテグレーションテスト時間の計測
  • デプロイ性工数&失敗数の計測
  • SLI/SLO/エラーバジェットの決定
  • ブランチ戦略のドキュメント化
  • ペルソナの定義

主に system 周りの計測や改善が中心でした。team 関連は改めてスコアリングをした際に「これはほとんどのチームでやれているよね」等と見直しをした結果、スコアが向上していたケースもありました。

What Did We Gain?

DX Criteria はスコアリングをするだけの物ではないです。これにより大きくDX向上しました。

例えば、エンジニアからしてみるとインテグレーションテストで待たされるのは時間の無駄になります。しかし、ジワジワとテストの実行時間が伸びていったりすると人間というのは不思議な物で「まあ、そういうものだよね」と感覚がマヒして、実際には問題があるテストが放置される事になります。これが計測する事によって数値化され、毎月振り返りの場でテスト時間が伸びている事の確認や、その問題への対策を打っていく事が可能になりました。実際に特定の長時間かかるテストを短縮したり、並列数を増やして待ち時間を減らしたりする事によって、早期に問題を発見して潰していけました。

違った観点からのメリットではSLI/SLO/エラーバジェットを定義する事によって、多少のダウンタイムもバジェット内と処理する事です。小さな障害でも社内のシステムリスク委員会への報告や必要な恒久対応はしますが、バジェット内であれば必要以上のサービスレベルの向上をする事はないです。つまり、経営側とどこまでのサービスレベルを維持するのかが明確に決めてあり、無駄な改善をしない事が達成できました。これについては後日担当者がブログを書く予定です。

New Version and Progress

2021年04月にスコアリングをしたタイミングにDX Criteria の新しいバージョンが出たので後日改めてスコアリングを実施しました。

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DX Criteria 202110

今回のバージョンからは可視化された際にレイティングがでるようになったのが大きな点で、課題のあるエリアが見えやすくなっています。

スコアが全体に上がっているには何点か要因があります。最初に、「このプラクティスは習慣化されているから問題なし」と、仕組的になくてもできている物は Yes と回答したりしたので、特にアクションを取っていなくてもスコアがあがっている項目が何か所かあります。これは質問への解釈を変えているという点が大きいかと。

これまで DX Criteria 改善という名目で何個かの施策を打ってきたのですが、エンジニアリング部門以外の領域、例えばデザインやコーポレート領域でスコアリングをしていたら実は改善施策を既に打ってくれていたというのも数多くありました。コーポレート領域ではコロナもありリモートワークが推奨されたり、SaaS間の自動連係を導入し業務改善を行ったり(WorkatoとGoogle 自然言語分析を使った業務オペレーションDX)等が具体的な例です。

Future and Beyond

最新のスコアを見ていただくとわかるのですが、システムとデザインではまだ改善の余地があります。この辺りは徐々に対応していく予定です。

一部の項目は我々が顧客資産を守る為のセキュリティ上、どうしても譲れない項目などもあるので、パーフェクトなスコアを取る事はないと思います。同時に、暗号資産を取り扱う業者として、この DX Criteria ではカバーできていない項目で我々が大事にしている事もあるので、コインチェック独自のアセスメント項目なども追加できていければベターかとも思っています。

Final Words

デジタル技術を活用している企業の技術責任者の方は是非 DX Criteria を導入してセルフアセスメントをする事をおススメします。アセスメントをする事によって自社の弱みや課題などが見えてきますし、逆に既にある強みも見えてきます。新しいバージョンにはベストプラクティスの例などもあるので、それらの情報を元に自社のDX改善を継続活動していけるとエンジニアも経営もハッピーになるかと思われます。

最後に DX Criteria を作成&メンテしている CTO協会の方々に素晴らしいガイドラインを作成していただき、大変感謝しております。

 

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