eKYCによる改正犯収法対応と運用改善について

1. はじめに

はじめまして、UX部Onboarding Groupの衛藤です。Onboarding Groupは主に会員登録から本人確認登録までを担当している部門となります。

犯罪収益移転防止法(以降犯収法と記載します)改正に伴い、コインチェックも対応する必要がありました。私はその犯収法対応のプロジェクトマネージャーとして参加しました。

2. 犯収法とは

簡単にまとめると『犯罪による収益のマネーロンダリングやテロリズムに対する資金供与を防止する』といった感じでしょうか。詳細については以下のリンクに記載されています。elaws.e-gov.go.jp

3. コインチェックの改正犯収法対応について

犯収法では本人特定事項の確認や疑わしい取引の届出などいくつかのことが求められいます。この中で本人特定事項の確認、個人であれば住所、氏名、生年月日を確認するいわゆる本人確認(Know Your Customer)に関わる業務の変更に対するプロジェクトです。

改正された犯収法の要件は以下のURLに記載されています。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/kaiseishiryo20181130.pdf

この内容を適用するため、コインチェックは2つの対応を行いました。

  • 第6条第1項第1号リ(平成32年4月1日施行)の対応

* 非対面取引において、下記に掲げる行為のいずれかの処置を講ずるとともに、顧客等の住居に宛てて、転送不要郵便物等を送付する方法。
    * 本人確認書類(現在の住居の記載のあるもの)2枚の写しの送付を受けること
    * 本人確認書類(現在の住居の記載のあるもの)の写し及び補完書類(現在の住居の記載のあるもの)又はその写しの送付を受けること

  •  第6条第1項第1号ホ(平成30年11月30日施行)の対応

* 顧客等から、特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、本人確認用画像情報の送信を受ける方法
    * 本人の容貌の画像の送信
    * 写真付き本人確認書類の画像の送信
        * 氏名、住居及び生年月日、写真並びに厚みその他の特徴を確認できるもの

第6条第1項第1号リについては既存機能の改修を行いました。
また、第6条第1項第1号ホについてはeKYCで新規対応を行いました。

 

改正犯収法の対応する前の本人確認フローは以下のようになっていました。

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改正犯収法対応前

本人確認書類提出から審査完了し、ハガキが到着するまで利用できるサービスが異なっています。お客様としては早く取引したいという思いがあるものの、ハガキ到着まで数日時間がかかります。

対応後は以下のよう本人確認フローになります。

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改正犯収法対応後

本人確認書類が2種類以上となり、お客様の準備が必要になることや、書類が増えたことにより審査時間も掛かってしまいます。一方、eKYCを利用することで審査完了するとすぐに全てのサービスが利用出来るというメリットがお客様にあります。

今回はeKYCについて触れていこうと思います。

4. eKYCとは

eKYCとは、『口座開設に必要な本人確認手続き(Know Your Customer)を全て電子的(electronic)に行うこと』となるようです。

口座開設のために来店する必要がなく、ハガキ発送が不要なため、ユーザーに評価が高く多くの金融機関で採用されています。

お客様がeKYCを利用すると、ハガキがお客様のところに到着するまでの待ち時間は無く、最短で即日に全ての取引が可能となります。暗号資産に興味を持って頂いたお客様がすぐに取引できるということでコインチェックのモバイルアプリに採用しました。

eKYCを導入するメリットは以下のようになります。

  • ランダムに指示された通り撮影することによる真正性を確認できる
  • 動画撮影により本人確認書類の厚み等が確認できる
  • 本人確認書類提出から承認までのリードタイムを短縮できる
  • 郵送コストが削減できる

eKYCでは決まったフローになっていくので、そのガイダンスに従って登録していくと容易に本人確認書類申請に進むことを見込んでいました。

『かんたん本人確認』という名称でリリースしました。

coincheck.blog

5. eKYCを導入してから

プロジェクト開始当初は利用率を70%くらいまで上げていきたいという想いで導入したのですが、そううまくは行かず課題点が出てきたので対応内容について記載していきます。

ディープリンクを設置

2020年1月27日にAndroidアプリにてeKYC対応版をリリースしました。また、2020年3月24日にiOSアプリのリリースをしました。お客様により多く使って頂けるかなと思ったものの、利用率が期待していたほど利用されていないことに気が付きました。

Android版のeKYC利用率は10%程で、iOS版のeKYC利用率は45%という状態でした。

どうしてこのような状態になっているのか調査したところ、会員登録した際に本人確認提出をWebで進めているお客様が大半だったので導線の見直しを行いました。

Webで進めている要因としては以下のようなフローになっていました。

  1. 会員登録をアプリで行う
  2. 『登録メールアドレス確認のお願い』というメールを受信する
  3. 受信したメールに記載しているURLを押す
  4. ブラウザが立ち上がりコインチェックのWeb画面に遷移
  5. このまま本人確認の登録へ進んでしまう

メール本文に記載されたURLを踏むとブラウザが立ち上がってしまい、お客様はコインチェックのアプリに戻らずブラウザのまま本人確認をしている状態でした。

対応策として、メール本文に記載したURLの遷移先にディープリンクに変更しました。こうすることで、メール本文のURLを踏んだ時にアプリに戻ってこれるので本人確認に来たお客様をeKYCの方に誘導することが出来ました。

4月7日にディープリンク対応版をリリースして4月9日にはeKYC利用率が50%、4月22日には60%を超えて5月18日に68%を超えを達成しました。

Web側にアプリ誘導するQRコードを設置

5月26日にWeb側の本人確認画面にアプリに誘導する文言表示やQRコードの表示を行いました。

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このリリースをすることにより、eKYC利用率が70%を超える日も出てきました。 

FAQを更新

eKYCの途中で離脱してしまうお客様も出てきてしまっているので、口座開設に対するFAQをステップごとにわかりやすくしていきました。

faq.coincheck.com

その他にも

eKYC利用率が上がってくると、今度は本人確認書類の誤りや記入の誤りが目立つようになってきました。そのことについてもまたいつかブログで触れていけたらと思っています。

今後はeKYC利用率を80%まで上げていきたいというのを目標にして、日々改善を行っています。

6. 最後に

今回は犯収法の対応でeKYCを導入してから気付きと対応内容について記載しました。

お客様には滞ること無く最短で取引して頂きたいため、気になる所があれば改善していきたいと考えています。本人確認書類を提出するというお客様にとっては手順の多い作業となってしまいますが少しでも負荷を軽減できるように努めていきたいと思います。

法律適用の案件は難しいのですが社内に強力なメンバーがたくさんいるので色々と協力して頂きながら今後もプロジェクトを進めていきたいと思います。