AI時代のエンジニアのこれからを認知心理学から考える

この記事はコインチェック株式会社(以下、コインチェック)のアドベントカレンダー6日目の記事です。

(コインチェック Advent Calendar 2025)[https://qiita.com/advent-calendar/2025/coincheck]

1. はじめに

こんにちは、Yamazakiです。コインチェックでエンジニアをしています。

エンジニアリングの現場では「認知負荷を下げる」という言葉をよく耳にします。たとえば『チームトポロジー』では、各チームのキャパシティに見合う情報量に設計し、個々のパフォーマンスを最大化する考え方が紹介されています。

この認知負荷に関連して、「知の探索」と「知の深化」という認知心理学の理論があります。今日はこの枠組みとAI時代のエンジニア像について、私の考えをまとめます。

2. 「知の探索」と「知の深化」とは

マーチ(1991)は、組織学習における「知の探索」と「知の深化」を提起しました。

  • 知の探索:サーチ/変化/リスク・テイキング/実験/遊び/柔軟性/発見/イノベーション
    ――要するに「これから来るかもしれない新しい知の追求」。たとえばプロダクトの新施策のために異分野を学ぶ、人に会う、仮説検証を回す、など。私はこの探索にリスク・テイキングが含まれる点が特に重要だと考えています(後述)。
  • 知の深化:精錬/選択/生産/効率/導入/実行
    ――つまり「すでにある知の徹底的な深掘り」。プロダクトの新施策を実現するためにコーディングや運用を頑張る、といった営みです。

人間の認知・情報処理には限界があり、過負荷をかければ性能は落ちます。理想は探索と深化の両立ですが、現実にはどちらかに偏りがちです。

3. 従来の分業と、AIによる地殻変動

これまでエンジニアは知の深化に偏ることが多かったと思います。ビジネス側が探索を担い、エンジニアは決まった施策を実装で深める――という棲み分けです。コーディングの難易度が高く、限られた認知資源を実装に集中させるのが合理的だったからです。

しかし最近、この前提は崩れつつあります。AIは知の深化の領域が得意で、ビジネス側でもAI経由で一定のコーディングが可能になってきました。

一方で、シュンペーターが提唱した新結合理論にあるとおり、イノベーションは「知と知の組み合わせ」から生まれます。エンジニアが技術の知と、技術外の知を組み合わせることで価値を出しやすくなっているとも言えます。

ポジティブに見れば、AIによって深化に割く人間のリソースが減り、探索に投じられる資源が増える。結果として、エンジニアがイノベーションを起こしやすい環境が整いつつあります。

4. エンジニアとリスク・テイキング

探索にはリスク・テイキングが含まれます。ここが足かせになりやすいと感じています。
エンジニアは「障害ゼロ」「バグ件数」など減点型の指標で評価されがちで、明確な正解のない領域に踏み出す動機が弱まりやすいからです。しかし、明確な答えがない分野で結果を出すには必要なリスクを取ることが不可欠です。

私自身、探索的な取り組みをするときは「エンジニアの性分としてリスク回避に寄っていないか?」と意識的に自問するようにしています。必要なリスクを見極めて取る姿勢が、これからの時代の鍵だと思います。

5. コインチェックという「探索の土壌」

コインチェックは、エンジニアが探索を楽しめる環境だと実感しています。

暗号資産という不確実性の高い事業領域に加え、周辺の法律・会計・リスク管理といった「技術外の知」が欠かせません。技術面でも Web3(ブロックチェーン)× Web2 が折り重なる、国内でも屈指の「良いカオス」。この環境では、探索で得た新しい知と既存の知を組み合わせる機会が、文字どおり至るところにあります。

たとえば、私が所属するリスティング&プロトコルグループでは、新規通貨上場に向けた設計・開発を担います。ここでは、一般的なソフトウェア開発の知見がしっかり活きます。そのうえで、ブロックチェーン技術を実務を通じて学べるチャンスもあります(入社時点で必須というわけではありません)。

また、案件によっては金融/勘定系システムの構築が関わるケースもあります。そうした場面では、法務・会計・リスク管理のエキスパートと協働し、規制や会計の要件を読み解きつつ、技術的要件へ落とし込み、全体のアーキテクチャを固めていきます。つまり、技術だけで閉じずに異分野の知を結び直すことが日常です。だからこそ、短いサイクルで多くを学び、探索→設計→実装→運用の各段で知の深化にもつなげられます。

知の探索と知の深化の両輪を回せる環境は、AI時代においてもエンジニアの市場価値を高めると考えています。AIが得意なのは既知パターンの深掘りであり、前提を疑い仮説を立て、曖昧な条件下でどこから手を付けるかを決める――こうした探索の初動は今も人間のほうが強い場面が多いからです。ここで実地の探索力と、コーディングなどの深め切る力を鍛え続けられることが、変化の速い時代でも替えのきかないエンジニアでいられる土台になると考えています。

この「良いカオス」で挑戦したい方の応募をお待ちしています。

corporate.coincheck.com

6. 参考文献

www.diamond.co.jp

pub.jmam.co.jp